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横浜地方裁判所 昭和41年(ホ)360号 決定 1967年9月05日

被審人 日産自動車株式会社

主文

被審人日産自動車株式会社を、判示第二の一の(一)ないし(四)および同二の(一)ないし(三)の各事実につきそれぞれ過料金壱拾万円に処する。

手続費用は、被審人の負担とする。

理由

第一

一  救済命令の確定

日本労働組合総評議会全国金属労働組合(以下全金という。)は昭和四〇年一二月一六日日産自動車株式会社(以下日産という。)およびプリンス自動車工業株式会社(以下プリンスという。)を被申立人として東京都地方労働委員会に対して不当労働行為救済の申立をし、同事件は同委員会同年不第六七号事件として係属し、同委員会は審査の結果全金の請求にかかる救済の一部を認容し、次の主文を内容とする昭和四一年七月二六日付命令書を同月二八日日産およびプリンスに交付した。

(命令の主文)

1 被申立人プリンス自動車工業株式会社は、工場長、課長をして申立人組合所属のプリンス自動車工業支部の組合員に対して、申立人組合の支持を弱めるような言動をなさしめたり、また、係長、班長が係員に対し就業時間中に同旨の説得活動を行なうことを放置してはならない。

2 被申立人プリンス自動車工業株式会社は、申立人組合員以外の者が申立人組合の支持を弱めるような活動をするにあたつて、会社の会議室や食堂を利用させるなど特別の便宜を供与してはならない。

3 被申立人プリンス自動車工業株式会社に対するその余の申し立ておよび被申立人日産自動車株式会社に対する申し立てはこれを棄却する。

日産およびプリンスは、右命令書の写しの交付を受けた日である昭和四一年七月二八日から一五日以内に中央労働委員会に再審査の申立てをせず(労働組合法第二十七条第五項)、また、同日から三〇日以内に右命令の取消しの訴を提起しなかつたので、右命令は確定した(同条第六項および第九項)。

二  日産とプリンスの合併

日産とプリンスは昭和四一年四月二〇日会社の合併契約を締結し、次いで右契約にもとづき同年八月一日日産はプリンスを吸収合併した(以下合併後の日産を会社という。)。そして、会社は全金の下部組織である全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部(以下支部という。)の組合員を含むプリンス従業員に対する使用者たる地位を承継した。

第二会社の命令不履行

一  (一) 会社プリンス事業部村山工場第二製造部ミツシヨン課(荻窪所在)課長吉田清市は、昭和四一年九月五日(月)午後一時頃同課二階会議室に支部所属作業員山口義弘を呼び、同時刻頃から午後四時頃まで約三時間に亘り前週後半に生じた同人とその同僚間の紛争について事情を聴取した際、斉藤課長補佐、佐久間係長および百瀬元班長同席の上、「全金なんかない。リモコンであやつられているのだから、家族のためにも考方を変えて抜けるよう。」等と云って全金からの脱退を勧告し、以て山口に対して全金の支持を弱めるような言動をし、

(二) 会社プリンス事業部三鷹工場検査課長湯田温平は、昭和四一年九月二八日(水)午後一時過部下の従業員渡辺健を自席に呼び同人が同月二四日(土)就業時間中に小説を読んでいたことについて職場規律上そのようなことは許されない旨注意を与え始末書を徴するに際し同人が「私が全金組合員だということで何故差別されるのか。」と反問したのに対し「全金を抜ければ差別されなくなる。」旨答えて暗に同人の全金脱退を勧告し、以て同人に対して全金の支持を弱めるような言動をし、

(三) 会社プリンス事業部三鷹工場組立課長中島巳代治は、部下の杉山係長および五味川組長と共に昭和四一年九月二八日(水)午後一時頃同工場内私物置場に置いてあつた全金プリンス支部名のビラを入れた全金の袋を発見し、その所持人である同課従業員宇山充康に対して「職場に許可なくしてビラを持ち込むな。」「持ち込むなら会社人事課長又はプリンス部門新労組の許可を得なくてはならない。」等と云い、以て同人に対して全金の支持を弱めるような言動をし、

(四) 会社プリンス事業部三鷹工場総務課長都筑孟治は、昭和四一年九月三〇日(金)午前九時五〇分頃三鷹本工場総務課室に部下の分工場勤務電話交換手誉田美枝子を呼び同時刻頃から午後四時三〇分頃まで昼食時間をもふくめ前後約六時間余に亘り同所に坐らせ同女がその職場の特殊性を利用してしばしば私用電話をかけたことにつきその実情を調査しそれが会社内外の通話に支障を来す惧ある旨注意を与える過程において「考え方を変えない限り仕事をさせるわけにはいかない。」とか、その二日前の夜是枝元係長および西河日産プリンス部門労組中央委員が同女の全金脱退勧告のため同女の家庭訪問をしたことについて「家族から何か云われなかつたか。」等と云って暗に同女に全金からの脱退を勧告し、以て同女に対し全金の支持を弱めるような言動をし、

二  (一) 会社プリンス事業部三鷹工場第二試作課の井上鴻介組長(合併前の班長)は、昭和四一年九月二九日(木)午前九時三〇分頃同工場の鋳物工場に支部所属従業員岡田勲を呼び同時刻頃から午前一一時頃まで約一時半に亘り同人の同僚との協議を求め「大勢の者が同じ方向に進んでいるではないか。」とか「親が全金に入つていることを心配しているだろう。」等と云つて暗に全金からの脱退を勧告し、以て同人に対し、就業時間中に全金の支持を弱めるような説得活動を行い、

(二) 会社プリンス事業部宇宙航空部製作課麦倉柾司係長は、昭和四一年九月一〇日(土)午前の就業時間中約三〇分間に亘り直属の部下である旋盤工鎌田道宜に対しその作業中作業場において作業責任および勤怠等について注意を与えると共に「お前のところは子供が大勢いるから将来のためにもよくないから、早く全金をやめるよう。」と云つて全金からの脱退を勧告し、以て就業時間中に同人に対して全金の支持を弱めるような説得活動を行い、

(三) 会社プリンス事業部繊維機械部生産課元係長(当時も事実上係長として部下を統率監督していた。)柿沢治男は、高橋明主任と共に昭和四一年九月二一日(水)午前一一時頃自己の部下である同課事務員伊師義子を同課会議室に呼び、同女の私用電話が多いことや就業中業務外の離席の多いこと等について注意を与えると共に同女に対し「親睦会からぬけてくれ。あなたの考方が違うからみんなは一緒にやつてゆけないと云つているから。」と云つたところ同女が「私が全金派だからでしよう。」と反問したのに対し「それなら、全金をぬけたらよい。」と云つて全金からの脱退を勧告し、以て就業時間中に同女に対して全金の支持を弱めるような説得活動を行い、

会社はそれぞれ前記救済命令に違反したものである。

第三  第一の一および二の各事実は一件記録に徴して明らかであり、第二の一の(一)の事実は証人山口義弘および同吉田清市の各証言の一部、同(二)の事実は証人渡辺健および同湯田温平の各証言の一部、同(三)の事実は証人宇山充康および同中島巳代治の各証言の一部、同(四)の事実は証人誉田美枝子および同都筑孟治の各証言の一部、第二の二の(一)の事実は証人岡田勲および同井上鴻介の各証言の一部、同(二)の事実は証人鎌田道宜および同麦倉柾司の各証言の一部、同(三)の事実は証人伊師義子および同柿沢治男の各証言の一部のほか東京都地方労働委員会調査調書、除名通告(脱退勧告)書および除名処分者氏名簿その他一件記録に徴し、それぞれこれを認めることができる。

第四  しかして、第二掲記一の(一)ないし(四)の各事実は第一掲記の東京都地方労働委員会の確定の救済命令主文第一項前段に、同二の(一)ないし(三)の各事実は同項後段にそれぞれ違反し労働組合法第二十七条第九項、第三十二条後段に該当するから、非訟事件手続法第二百七条第一、二、四各項に則り、主文のとおり決定する。

(裁判官 若尾元 吉田良正 松田光正)

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